ガンを「告知」された時にすべき3つの質問
がんを「告知」された時にすべき3つの質問
一介の外科医、日々是絶筆
特別編3回 家族にもできることがある
2018年5月31日(木)
中山 祐次郎
こんにちは、福島県郡山市の総合南東北病院外科の中山祐次郎です。前々回から、この連載は特別編「医者の本音」シリーズとして全8回で毎週お送りしております。
私は大腸がんの専門なので、患者さんにがんの告知をすることは日常的にあります。
そんな時、患者さんのほとんどは頭が真っ白になり、思考が止まってしまいます。私が詳しいご病状を説明しても、ほとんど頭に入らないことがよくあります。私はそれを非常に気にかけているので、紙に書いて説明するようにし、場合によっては翌週にもう1度、同じ話をすることさえあります。
がんの告知という、恐らく人生最大級のショックを受けた時。訳が分からなくなってしまうのは、とてもよく分かります。しかし、医者は検査や治療のスケジュールを決めていかねばなりません。そこで、がんと告知された時に皆さんが、どんなに頭が真っ白になっても、医者に対してしておくべき質問をまとめました。最低限、次の3つだけは聞いておきましょう。
がんの治療は慣れているか(1年で何人くらい担当しているか)
どんな予定で検査や治療を進めるつもりか
私・家族にできることは何か
一つずつ、解説していきます。
その医者、がんの治療に慣れている?
1. がんの治療は慣れているか(1年で何人くらい担当しているか)
この質問は、あなたの担当主治医が、該当のがんにどれだけ詳しいかを尋ねています。「え、医者なら何でも詳しいんじゃないの?」という質問をかなりの回数されたことがありますが、実はそんなことはないのです。ここではそのお話をしましょう。
医者の多くは「専門」を持っています。例えば私は、消化器外科を専門としていますが、中でも大腸という臓器が専門になります。そして、その中でも大腸がんの治療を専門にしているのです。さらに私が得意としているのは、小さい傷を開けることで行う手術「腹腔鏡(ふくくうきょう)手術」と、がんが進行してしまって他の臓器も取らなければならない「拡大手術」と呼ばれる手術です。この辺りでは、そうそう普通の外科医には手出しできないレベルまで執刀します。例えば膀胱や尿管を取って再建するという泌尿器科医の領域や、子宮や卵巣の切除という産婦人科医の領域でも全て自分で執刀可能です。
逆に、消化器外科の他の領域である、肝臓や膵臓の手術は不得手といえます。手術ができないわけではないのですが、最高レベルではないため、得意分野の外科医と一緒に手術を行います。そして、肺がんや乳がんの手術はここ8年ほど執刀していませんので、あまり自信がありません。食道がんの手術はやったことがありませんので、執刀できません。他に、⿏径ヘルニアなどの小手術は得意にしています。
「医者であれば、どんなことでも最高レベルでやれる自分でありたい」。これは医者の矜持(きょうじ)ですから、不得手なことを明かす医者は少ないかもしれません。しかし、ここ数十年で医療はとてつもない細分化を進めてきました。ですから、医者一人の知識や技術の中にはかならずムラがあるのです。
多くは次の2パターンに分かれます。
aの医者は、まんべんなく広い領域の知識と技術があるが、突出したものはない。一方でbの医者は、ある領域にだけ特化した深い知識と技術があるが、他のことは全然分からない。
外科医において、日本の多くの医者はaのタイプでしょう。「今日は大腸がん手術。明日は乳がん手術と肺がん手術のお手伝い。あさっては肝臓を切った後に痔の手術」という働き方をしています。
bタイプの医者は、「今週は大腸がん手術が5件で、来週は7件」といったスタイルです。このスタイルが許されるのは、一部の「がんセンター」や「地域がん診療連携拠点病院」と呼ばれるような大きな病院で、外科医がたくさんいる場合に限られます。
目安は「年間20人」
話を戻しましょう。もしあなたががんと告知されたとき、それを知らせた医師は多くの場合、そのまま主治医になります。主治医が、あなたのかかってしまった種類のがん治療を、ある程度でも得意としているかどうか。それを尋ねましょう。
目安としては、年間20人以上、その種のがん治療に携わっているか。携わっていれば、医者はあなたのがんについて専門性を持っていて、最新の知識をインプットしている可能性が高いと、私は考えます。ただし20人という数字には注意が必要です。それは、珍しいがんであった場合は、もっと少ないこともあるということです。20人という数字が当てはまると考えられるのは、次のがんの場合です。この表は、2013年にがんの罹患率(りかんりつ、人口10万人のうち何人がそのがんにかかったか)が多かったがんを順に並べたものです。
1位 | 2位 | 3位 | 4位 | 5位 | |
男性 | 胃 | 肺 | 大腸 | 前立腺 | 肝臓 |
女性 | 乳房 | 大腸 | 胃 | 肺 | 子宮 |
(国立がん研究センターがん情報サービス「最新がん統計」より)
年間20人という数字は地域によっても異なります。もともと人口が少ない地域であれば、10人でもいいかもしれません。なお、この数字は私の主観であり、科学的根拠はありません。
聞きづらい質問かもしれませんが、あなたのこれからの治療を左右する大切なことです。ぜひ、聞いてみてください。
もし質問をしただけで怒るような医者ならやめましょう。現代では、コミュニケーション能力も医者の能力の一つです。「年間何人そのがんの治療をしていますか」と聞かれたら、おそらく不快に思う医者はいると思います。私でも、患者さんから聞かれた時には少し面食らいました。だからといって、不快な感情をそのまま患者さんにぶつける医者は、これから長い付き合いになることを思えば、やめた方がいいでしょう。
病院によって違う「混み具合」のタイプ
2. どんな予定で検査や治療を進めるつもりか
今後のスケジュールを立てる上で重要な質問です。
がんの進行具合やあなたの症状(痛みやつらさなど)によって、スケジュールはかなり変わってきますので、まずは主治医のイメージを聞いてください。
もちろん患者さんとしては1秒でも早く検査をし、治療を始めたいと思われるでしょう。しかし病院によっては、かなり長い待ち時間が発生することがあります。大きな病院であってもMRI(磁気共鳴画像装置)が1台しかなければ、検査まで1カ月待ちなんてこともあります。私が過去に勤めた病院の中にも、「MRI検査を受けるのに1カ月待ち」という所がありました。
他にも、検査は外来通院ですぐにできるが、入院となるとベッドがいっぱいですぐには入れない、という状況もあります。病院によってかなりまちまちなので、ぜひ主治医に聞いてみてください。
私も含めて医者は、自分の病院のスタイルに慣れています。
例えば大腸がんと告知された場合を考えます。
ご自身の好みと合うかどうかが大事
近所の市立A病院では「手術が必要になるので、今日この足で検査を3つ受け、来週CT(コンピューター断層撮影装置)と大腸内視鏡、MRIを受けてください。再来週の月曜に入院し、火曜日に手術しましょう」という感じです。
また、Bがんセンターでは、患者さんが集中しています。そのため「まずCT、MRI、大腸内視鏡検査をやる必要があります。予約がいっぱいなので、1カ月にわたって検査を受けてください。その後、科内の会議で提出し、手術の日程を組みます。申し訳ありませんが手術も混んでいて、2カ月待ちです。今からおよそ3カ月後に手術ができれば、早い方かと思います」と言われることもあります。
どちらがいいか、ここも患者さんごとに分かれるところです。
「市立A病院じゃないと嫌だ。近所で通いやすいし。1秒でも早く悪いものを切って欲しい」という方がいる一方で、「順番待ちは嫌だが、Bがんセンターのようにじっくり検査をし、大腸がんの専門に特化している病院の方が安心だ」という患者さんもいます。
これは好みです。どちらがいいとはいえません。ですが、ご自身の好みと、これから通う病院のスタイルは同じである方がいい。これは間違いありません。
告知のあと、うつ状態になる人も
3. 私・家族にできることは何か
いきなりがんの告知をされた場合、患者さんは激しいストレスにさらされます。あまりにひどい場合、回復せずにうつ状態になってしまう方もいらっしゃいます。次の図をご覧ください。
(国立がん研究センターがん情報サービス「がんと心」から引用)
告知から数週間は、どんな方でも苦しい精神状態が続きます。その間、多くの患者さんは「何かできることがないか」を探します。患者さんによっては「人参ががんに効くらしい」と聞けば人参ジュースばかりを飲んだり、「1本1万円の水でがんが消えた人がいるらしい」と聞けば高価な民間療法を試したり、様々な行動をとります。
「今、この時にできることはないか」。こう主治医に聞いておくことを私は強くお薦めします。理由は、体の健康だけでなく、こころの健康にとっても役に立つからです。
医者の答えは様々でしょう。がんによって、ご病状によって変わってきます。
例えば大腸がんの患者さんであった場合、私はなんと言うでしょうか。
医者にアドバイスを聞く大切さ
まず、タバコを吸っている方には禁煙をかなり強く薦めます。場合によっては禁煙外来を紹介します。理由は、今後の治療でいろんな支障をきたすからです。特に手術をする場合、喫煙していると手術後に肺炎や痰が増えるなど悪いことばかりです。医者によっては「禁煙をしなければ手術はしない」と患者さんに言い切っている人もいます。大腸の手術であれば、切った腸どうしがくっつきにくくなり致命的なことになる危険が増えるため、強く禁煙をお願いしています。
その上で、その方の状況によってこうお伝えするでしょう。
早期がんで、いずれ手術をする元気な方→
「これまで通りの生活をしてください。食べ物や運動など、これまで通りにしてください。ただ、今後手術になり体力が必要になりますので、体力を落とさないように気をつけてください」
進行がんだが症状がない方→
「これまで通りの生活をしてください。ただ、がんで貧血が進んだり、栄養が奪われたりすることがあります。疲れやすい、ふらつきやすいなどの可能性があるので、無理はしないようにしてください」
このような具合です。がんのせいで大腸の管が詰まりかけている人には、消化しづらい食べ物は控えるよう伝えます。ご高齢であれば患者さん一人ひとり、お伝えする内容は微妙に変わってくるでしょう。こんな風に、「自分・家族でできること・注意点」について医者に尋ねるのは、非常に有効だと思います。
以上、3つの質問を提案しました。
もしかすると、「この質問は聞きづらい。失礼にあたるのではないか」とお思いの方もいるかもしれません。しかし、がんの治療は、ときにあなたの命を左右すること。失礼もなにもありません。ぜひ遠慮なく、聞いてみてください。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/16/011000038/052800035/